後藤隆幸 キャラクターデザイン・総作画監督
関口可奈味 作画監督
中村 悟 作画監督
古川尚哉 レイアウト作画監督
橘 正紀 演 出
河野利幸 演 出
吉原正行 演 出
遠藤 誠 3D監督
田中宏侍 撮影監督
「餅は餅屋」
堀川:もう少ししたらP.A.にデジタルセクションを仕掛けていこうと思っているんです。撮影がデジタルになってから、撮影部が演出と同じフロアーにあったほうが最後にひと盛りできると云う考えで、以前置いてみたんですが上手くいかなかった。今度もう一度立ち上げるときの参考意見が欲しいんです。撮影セクションを育てていく上でこう云う環境が必要だとか、何を方針として決めなきゃいけないって云うものがあると思うんです。撮影監督としてやってきた田中さんに助言を仰ぎたいんですが。
田中:非常に難しいですね(笑)。
堀川:難しいですか?(笑) まず演出の存在が大きいと思うんですよ。
田中:大きいと思います。ですけど、最近思うところはですね、以前神山さんも言っていたと思うんですけれど、全部が全部に対して演出が付きっ切りになるって云うのは、非効率じゃないかって気がしているんですね。監督が餅は餅屋って言っていたように、そこに任せておけばどう云うモノが上がってくるのか、ある程度想像がつけば演出はちょっとした指示を出すだけで上がりのコントロールは出来るわけじゃないですか。ベッタリ撮影に張り付くことで演出的にはすごく満足した仕事になるとしても、どうしても量産は出来ないし疲弊もすると思うんですよ。そう云う意味では撮影も3Dもそうですけれど、ある程度任せられる人間まで育たなきゃいけない。やっぱり最初にフィルムからデジタルになったときってそうだったんですけれど、とにかく何でもかんでも演出さんの指示が無いとできなかったんです。1から10まで指示してもらわないと出来ない。それで、リテークの理由が「演出の指示が駄目だから」って云う建前があったと思うんですよね。だからこそ演出が付きっきりの状態になったとは思うんですけども、それは違うんじゃないかなって云う気がします。特にシリーズなんかはそうですよね。ただ、最初の段階ではやっぱり演出さんの力を借りなきゃいけないと思うんです。撮影部のセクションを育てていくことに付き合ってくれる演出さんがどれくらいいるかなぁって云うことですね。攻殻もそうですけれど、「BLOOD+」もやって見て、いろんな演出さんと仕事をすると勉強になるんですよ。一人の演出さんだけではなくて、いろんな方の癖や持ち味を吸収できるんですね、撮影って。そう云う意味ではいろんな演出さんと仕事をするのは良いことだと思います。
堀川:演出もいろんなセクションと対話を積み上げて、スキルを上げていきたいって云う意欲は当然あると思いますよ。
「撮影の垣根」
堀川:フィルムのころからある撮影会社は、プロ意識がものすごく強いセクションだったんですが、デジタルになって撮影会社のそのあたりの意識が変わってはきたなぁと思ったんですよね。それが良いことなのか悪いことなのか、結果は出ていないんですが。撮影セクションが背負うもの自体変わってきている。これだけ作品数が溢れていることと、仕上げ以降のセクションのデジタル化で、制作工程の一部受けの会社は垣根が無くなってきましたよね。デジタルセクションを持つ会社は領域が膨張しているんですね。仕上げ会社、特殊効果、3D、背景、撮影会社、いろんなセクションで融合が始まっている。各企業は自社のカラーを出すために、コンビニみたいに一箇所でワンパックでできちゃうよって云うものか、専門店の強さを出すか。あとは線撮のディスカウントショップとか。デジタルコンビニか、撮影専門店で特化した方向に進むか、そのあたりはどう見ていますか?
田中:私は残念ながら撮影だけで特化したものは無いと思うんですよ。今、撮影の垣根が無くなったっておっしゃいましたけど、無いんですね。垣根が無いって云うのは、例えば撮影に発注が来たときに、撮影側が「出来ない」って言ったところまでが撮影の垣根になっちゃうんですよ。だから、実は外部で「撮影(の領域)ってこうだよね」って云うふうに思っている人は、意外にいるようでいない。撮影会社がどんなに自社の撮影技術を自負していても、やっぱり発注する側から見て便利じゃなければお願いしないんですよね。発注する側にクオリティーの差が判らない人がいる(笑)って云うところもあると思う。そう云う意味では、何でもかんでも出来るところに投げておけば安心って云うのもありますし、とにかく仕事を取るためにどんどん肥大化しているって云うのはあると思いますね。特にデジタル化が進んだ初期に、制作会社が撮影部署を持ったと思うんですよ。まずフィルムの撮影台ほど設備投資の必要が無いし、線撮がタダになる(笑)って云うのもあると思うんですよ。それと、これは憶測でしかないですけれど、やはり凄いプロ意識を撮影会社が持っていたのを、どことなく煙たがっていたって云うのもあるのかな。逆に新しく出来てきたデジタルの撮影会社が何でもやると言い出したら、今までの撮影会社は、技術の上に胡坐をかいていられなくなった。言い方は悪いですけれど。フィルムのときだったら、「撮影の仕事はここまでで」、「ここまでのものを用意しろ」って言えたものが、強気でいられなくなったと思うんですよ。そうなってくれば、フィルムからデジタルに移行した撮影会社も、ウチは特効もやるよ、3Dもやるよって云うふうになっていったんじゃないかなって気はしますね。フィルムからデジタルに上手く移行しきれなかったフィルム会社さんは、暫く技術的に厳しいところはありましたけれど、いろんな会社から流出した人材を集めたりして、充分遜色ない技術を持った会社になっているので、今後は上げてくるものに関しては、より、差別化が難しいですね。
「それはどこの部分に関してですか?」
堀川:僕は逆に、ソフトを使える人が数人集まって撮影会社を立ち上げたところは、フィルムからデジタルに移行した撮影会社に比べたら、はっきり言って駄目だと思ったんですよ。
田中:それはどこの部分に関してですか?
堀川:時間管理に関してと、プロ意識がまるで違うと思ったんですね。デジタルではフィルムを1コマ撮るときの緊張感がゼロに等しいでしょう?フィルムではラッシュを上げないとチェックできない。1コマ間違えたら、何時間もかけて撮影してきたものが全部無駄になってしまうから神経も張る。この緊張感をデジタル撮影に強いる方が無理なんですけど、フィルムからの撮影会社のスタッフは体感で染み付いているんですね。キーボードの横に飲み物が置いてあるなんて線画台では考えられないじゃないですか?
田中:でしょうね。
堀川:極端な例だけれど、いくらでも撮り直せるんだから、とりあえず数上げて潰していこう、リテークが出たら直せばいいやって云うスタンス、プレビューすら見ていない、量を捌けばいい、と云うような姿勢で撮っているのかと思ったことがある。これは今までの撮影スタッフとは違うスタンスだと思ったんです。フィルムからデジタルに移行した人たちは、その管理とか緊張感を持った姿勢を受け継いでいる。デジタル撮影技術の習得は、フィルムで培った絵作りのセンスさえあれば追いつくのにさほど時間はかからないんじゃないかな。時間管理についても、タイムシートを見て、そのカットの所要時間を読む、レンダリングまで含めて何時間で終了するかを読む訓練がされている。そう云う時間管理が撮影会社から移行したところには徹底されている。フィルム時代のラボ便から来るものでしょうね。そういう教育がされているところを、後発でデジタル撮影部を作った会社やチームでは僕は知らないなぁ。
田中:無いと思います。
堀川:フィルムから移行した撮影会社でも、今後デジタル育ちの人ばかりになれば意識も変わってくるでしょうけれど。デジタル撮影よりフィルム撮影の方が時間管理と緊張感を必要としていたと云うことですね。でも、この仕事に対する姿勢は、上がりの差に出ると思うんですよ。もちろん、撮影がデジタルになって本当に良かったな、と思うこともあります。労働環境が明らかによくなった。暗室で1日中立ちっぱなしの仕事で、セル1枚についた、ほんの小さな埃やキズも見逃せない、そんな環境で緊張を強いられる職業に、今後若い人材が入ってくるだろうかと思うと、デジタル化はとてもいいことだったと思います。P.A.もこれから撮影部を立ち上げようと思えば、当然デジタル撮影になるわけだから、その管理意識とプロ意識はどう教育すべきか、ずっと考えているところです。
「あ、これが俺の仕事なのかな」
堀川:特に色についての垣根なんですが、フィルム撮影ではで要求されることのなかった調整を求められるようになるかもしれない。色彩設計や背景、それぞれ個別にはコントロールしきれない画面全体の色調の微調整があるじゃないですか? それが今後コンポジット時に適用されていくんじゃないかな、と思いまして。最近「蟲師」を見てもそうだし、実写なら岩井俊二作品の青はいいなぁと思うんだけど、あの柔らかいイメージをアニメーションでやろうとしたらコンポジットでの調整が必要ですよね? そうすると、やっぱり色をコントロールするセクションの垣根が無くなって、撮影監督は美術監督と色彩設計の領域まで踏み込むことになるのかとも思ったんですが、そこのところはどうですか?
田中:そうですねぇ、岩井俊二作品って云うと、僕も好きな篠田昇さんの映像なんですけれど、あの方のは正に撮影監督だなぁって云う仕事だと思うんですよ。やっぱり美術監督がいて、色彩設計の方がいて、元になるものは設計されていないといけないと思う。カメラを買ってモノを撮るようになったんですけれど、『ああ、今のここの空間、いいな』と思ったんですね。思ったままにシャッターを切って撮ったものを見たんですけれど、そこに自分が感じた雰囲気とか空間が無いんです。そのとき感じたものが撮った映像に無い。その時に初めて、見たものを見たまま撮っただけじゃ駄目なのか、と云うことに気づいたんですね。『あ、これが俺の仕事なのかな、ひょっとしらた』って感じた。これが本来実写の撮影監督がやる仕事なのかなって云うふうに思ったんですね。それと同じことじゃないですかね。だからと言って美監のことを無視したり、色彩設計のことを無視した色の変更はNGだと思うんですよ。意味が無くなりますからね。だけど、それらの素材として集まってきたものを、最終的にどう云う雰囲気に持って行くかって云うことが撮影監督の仕事だと思うんですよね。
堀川:そのコンセンサスは話し合いで済むのか、誰が主導権を持つかって云うことはあると思いますが、最終的なコンポジットの段階で、Photo Shopで言えばトーンカーブをいじっちゃうような微調整は、どうしても背景を元にした色彩設計だけでは設計し得ない、ましてシーンを通して1カット1カットの色変えは劇場作品でしかやらない。そういったものを今後コンポジットの段階で撮影監督が担うことも出てきそうじゃないですか。
田中:そうですね。
堀川:それをやろうとすると、今の9スタのような作り方では量産には適さないですよね?
田中:全然無理ですよね。逆に量産でやるのであれば、撮影専門会社のように徹底した管理をしないと駄目でしょう。はっきり垣根を作ることで時間が読めると思うんですよ、初めて。そこで縛りをつけないでやることがデジタルのいいところだと考えるのであれば、逆に時間が読めなくなっていっちゃう。でも、それじゃいけないと思うんですよね、プロとして。
堀川:量産体制と垣根を取り払ったイレギュラーな対応、両方のいいとこ取りでやれればいいんですけれど(笑)。
「9スタで求められている役割」
堀川:撮影部署を作ったときに、その場その場で臨機応変に対応できるとか、会社のカラーを目指すのであれば、イレギュラーなオーダーに挑戦できる姿勢を残しておきたいんですね。田中さんは今後どちらの方向を目指そうと? たぶんワンパッケージは目指していないと思うんですよ。
田中:そうですね、やっぱり役割があると思うんですよ。今の撮影チームが9スタで求められている役割があると思うので、まずそれは必ず、当たり前のように踏襲した上で、それが出来た上で、その方向性に沿う形で、僕がやりたいことが盛り込めればいいなって云うのはありますね。9スタが作るものに合わせて自分の形を変えていかなければいけないと思うんですよ、その時々で。そこで、いや、撮影ってこう云うもので、ここまでしかできないからやらないって云うと9スタにいる意味がまず無いんですよ。それだったら外部の撮影会社に出した方が時間が読める。僕たち撮影チームの存在意義は、その時々にこの9スタがやろうとしている方向に沿った形にやり方を変えていくこと。形が変えられるのがデジタルのいいところです。今自分がやっている仕事の形を変えて、オーダーされる形にどうやってはめていくかをイメージできるか。それが僕の役割だと思っていますので、どうすればその作品に組み込めるかなって云うような相談を受けたときに、撮影じゃなくて3Dだったり、制作だったり、演出と相談しながら形を変えていく方法だと思いますね。そうしながらも自分のやりたいことって反映していけると思うんですよ、充分。だから9スタの撮影チームは、外の会社とは違う自由度みたいなところを持っていたいと思いますね。逆に特化しすぎて他に移れなくなっちゃう気もしますけどね(笑)。自分も他へ移ってはで出来ない、みたいな感じになっていっちゃう気はします。
堀川:この9スタの一番の特色、いいところは、3Dと撮影と仕上からアイデアを提案する姿勢がありがたいと、最後のひと盛りの部分でね。攻殻TVシリーズで培ってきたものがスタッフの中に共通言語としてあると云う話を演出がしてくれたんです。スタッフが更に上を目指す姿勢が非常に嬉しいと。3D監督の遠藤さんも、田中さんを信頼して、撮影チームとの連携が出来てきた、それがいいんじゃないかなって云う話をしていましたね。
「テクスチャーを無制限に発注できます」
堀川:3Dセクションと撮影がいっしょになっている撮影会社は結構あるんですか?
田中:最近は結構あると思います。作品を量産するためにデジタルセクションを拡張していく傾向はあります。背景会社がデジタル背景を始めて、その後に3Dを取り込んで3Dもやりますよ、今度は撮影もやりますよ、というように。企業として、ビジネスとして、量産体制を整えているために肥大化していってると思うんですね。
堀川:背景と3Dと撮影がワンフロアーでやることの一番のメリットはなんですか?
田中:もう、テクスチャーを無制限に発注できますね。
堀川:テクスチャーを無制限に発注できる?
田中:はい。美術さんと制作サイドの予算的な話しによりますけど、美術さんにテクスチャーの発注する点数があまりにも多くなると、テクスチャー一枚いくらみたいな話になったりするようなんですよ。
堀川:3D背景に貼りこむ?
田中:素材として作らなきゃいけない。そうなったときに、撮影側にはいろんな背景のテクスチャーのライブラリは無いですけど、恐らく背景会社さんであればデジタル2Dで作っている時点で、もう大量の素材を用意しているんですね。その素材がいっぱいあるわけですから、それを活用することで時間短縮ができますね。
堀川:撮影と3Dがいっしょになった場合は?
田中:撮影と3Dですか? 撮影と3Dがいっしょになった場合っていうのは、うーん、実はあまりないんじゃないかな。
堀川:無い?
田中:同じ場所にあればコントロールはしやすいって云うのはあるかもしれないですけど、やはり3Dって云うのはですね、アニメーターだと思っているんですよ。コンポジッターとはやる仕事が違うんですね。道具はいっしょですし、3D側がファイナルまでできることはできると思うんですよね。けれども大量のカットを処理するのには向いていないと思います、3Dっていうのは。ですので、全体をコントロールする、統一させるって云う意味では、撮影はやっぱり撮影なのかなと思っているんですよね。
「デジタル部としての一つの塊」
堀川:撮影と3Dでどう云う連携ができているのかが今ひとつ僕には見えていないんですよね。
田中:連携か・・・、そうですね。まぁ線引きも実際曖昧で、ついているようでついていない。
堀川:あ、そうなんですか?
田中:ええ。
堀川:3Dから素材が連番で提供されるのではなく、3Dでムービーにしてしまうこともあるんですか?
田中:ほぼそうですね。攻殻のテレビシリーズでは3Dの処理が色々加えられて、全部統合された形でこちらにきて、撮影ではほとんどトリミングするだけって云うカットもありましたね。そう云うものに関しては、そこで完成しているからそれ以上いじる必要は無い状態だとは思うんです。
堀川:なるほど。P.A.WORKS が3Dセクションと撮影セクションを作るときに、この2つのセクションの連携をどう考えていけばいいのか、まだ漠然としているんですよね。
田中:3Dと撮影があったとして、それらのコントロールを誰が責任をもってやるのかって云うことですね。そこに指示を出すときに、立場的にその作品においてのコンセンサスをとっているのは誰かっていう話になってくると思うんですよ。それがはっきりしていれば別に大丈夫だと思うんですけれども、両方とも位置的に同じ高さだとうまくいかないと思うんですよね。例えばもしP.Aさんで作るとして、デジタル部があって、デジタル部の管理者がいて、その中に3Dとコンポジッターの二人がいればコントロールは利くものだと思うんです。デジタル部としての一つの塊となると思うんです。そう云う意味で、君は3Dも出来るコンポジッターだね、っていう扱い方をしていけばいいと思うんです。ただし、こちらは3Dアニメーターとしてまではもっていけないと思いますね。3Dもできるコンポジッターと、3Dアニメーターとは別物だと思います。それは数、分量の話。
何と言っていいやら、非常に難しいんですね。撮影部に3Dがあったらいいなと思うこともあります。一つにはカメラマップとか、平面じゃ済まないカメラワークのときに3Dがあるといいなと云うのと、若干エフェクト関係で、3Dのパーティクルなどか使えると便利ではあるなって云うのはあります。ただ、3Dアニメーターとはやっぱり違うと思うんですね。使っているソフトの違いで3Dとコンポジッターを分けるのではなく、仕事の内容で分けるべきかなとは思うんです。ただ、どうしても現状では使っているソフト、イコールそのセクションって云う意味合いが強くて、例えばそのコンポジッターが3Dのソフトを使うことは何となく疎まれる風潮はありますよ。
「イメージを持っている」
堀川:今後P.Aで3Dレイアウトシステムを積極的に導入していこうと思います。モデリングは3Dに任せればいい。構図を決めるのは演出になるのか、レイアウトマンを立てるか、担当原画マンがやることになるのかわからないけれど、誰がやるにせよカメラ位置のオペレートが簡単にできるようなインターフェイスがあればいいと云う話をしているんですが、それが3Dスタッフにとっては職務を侵食されるような気がして歓迎されないだろうと云うことですね。でも、それは別の職務のような気がするのね。今回の檜垣(亮)さんの職務を3Dスタッフがやりたいのなら別だけど、モデリングと画面構成は美術設定とレイアウトマンくらい別の職務だからね。
田中:ええ。同じソフトを使っているだけで別の仕事なんです、明らかに。だからそう云う意味では3Dのオペレーターにそう云う縛りができているのかもしれないですね。
堀川:なるほど、今はソフトで棲み分けが出来ているんですね。
田中:そう云うものが根本にある気がします。そこに対する拘りは意味が無いと思うんですけれど。
堀川:これから撮影、3Dセクションを作っていく会社なら、最初の方向付けをしっかりしなければならないですね。デジタル部のトップの考え方に大きく左右されますよね。今後の流れを見て導ける人材を探さなければいけない。
田中:難しいですよね。やっぱりデジタル部の利点は利便性だと思うので、3Dレイアウトシステムをやるために最初はレイアウトを3Dに任せるのはいいんですけれど、その職務はコンポジッターや3Dアニメーターとはまた違うわけで、それをない交ぜにしてしまうとまた面倒なことになる。何でもかんでもやろうとして、結局自分が何者だって云うものが希薄になってくるんですね。
堀川:今僕が求めているような3Dレイアウトの職務は3Dセクションと云うよりは背景部、設定部に近いと思うんですよね。美術設定をモデリングで起こすところまで。そっか、ソフトで3Dセクションを一括しているから、3Dアニメーター、コンポジッター、設定、背景、いろんなセクションの職務が取り込まれているんですね。「海童丸」で3Dが試みたことは本来背景部の職務ですしね。
田中:そうですね、「海童丸」には美術って云うセクションが存在していなかったですね。背景を全部3Dでやるって云う実験作でした。デジタル化が始まったときは、そのソフトを使えることが採用条件だったと思うんですよ。そこでは映像イメージは持っていてもソフトが使えない人は排除されていったんですよね。そのころフィルムからデジタルに乗り換えられなかった人達は辞めていったと思うんですよ。でも、本当はそこでイメージを持っていると云うことが映像に対しては重要だと思うんですよね。黎明期のころはイメージよりもソフトを使えることを優先していたけれど、今はもうみんな使えるようになったから、それは売りにならなくなったと思うんです。本来のイメージが大事になってきていると思う。
堀川:そうすると、今まで3Dセクションがソフトと云う括りで作画、背景、撮影と領域を広げて行ったものが今後も拡張し続けるのでは無く、一旦解体されて各セクションの職務で再構成されるのが自然な流れと云うことになるのかなぁ。