P.A.Press
2005.10.25

第4回 攻殻機動隊S.A.Cスタッフインタビュー/Stance Stance Stance「紙に向かって静かに楽しむ」 関口可奈味(作画監督)

「ストイックなキャラクターの目」

堀川:9月にアニメージュ編集長の大野さん(*1)を囲んで、版権について話しを聞いたじゃないですか。その中で「目に力がある絵が欲しい」と。以前、似た話しを関口さんからも聞いていたので。

関口:そうですね。

堀川:新たなファン層を獲得するために、攻殻のキャラクターデザインで、作画が意識するのはそこでは?と云う話を8月に。

関口:ええ。ファンはキャラクターのどの部分に意識が行っているかですよね。大野さんは「目線の印象を残したい」と云う話をされていましたけど、購買層に向けて、目の情報量だけでも印象が違うようなんですよ。私の友達も、こう云うとアレですけど、シルエットで見ると関節が変なのに、目の描き込みがすごいとかディテールが懲っていると、クオリティーの高い作品だと思って買っちゃうらしいんですよ。一般のファンに向けた絵の説得力には、情報量が功を奏するって云うんですかね、1枚絵になったらなお更ですよね。キャラクターの顔で、やっぱり意識は心理学的にまず目に行くんでしょうね、きっと。スペシャル1点モノで、TVシリーズとの差を認められるとすると、TVでは出来ないキャラクターデザインの高級感を出そうとするなら、目の情報量を意識しておくって云うことでしょうか。

堀川:今回の攻殻SSSの作監でも、キャラクターがファンの目に触れたときに、そう言った部分を意識して魅せたいと思ったら、関口さんは目の情報量を意識してみようと云うのがあるんですね。

関口:それをあんまりやりすぎちゃうと、攻殻の世界観があると思うので、許容範囲で、分かる人には分かる範囲で何かできたら、とは思います。かなりストイックなキャラクターばかりですからね。今までは比較的表情系の作品を多くやっているので、攻殻は無表情に見えるんですよね。だけど、ストーリー的にも感情が出ている部分があるから、どうやったら出せるんだろうと。上手い原画さんから上がってきたのを見て、そこに何かプラスしていければいいなと考えています。何て云うんですかね、原画マンとして動きを追求すると、そちらに頭が切り替わっちゃうと、そのカットで表情もバッチリ決めるってかなり難しいですよね。ある程度引いたサイズの絵だと、やっぱり原画マンの意識は動かすことに集中するじゃないですか? そう云うカットに表情をしっかりのせるのも作監の仕事かなぁと。特に今回は。

*1 2005.09.05攻殻SSS(現場のゲリラ的)宣伝戦略の一環として、 大野修一アニメージュ編集長とスタッフとで「アニメ誌の戦略とアニメーターの版権意識」について話し合う場を設けました。

「ムムッ、来るなっ」

堀川:今回攻殻SSSのクオリティーを上げるファクターとして、スタッフの参加意識を高める取り組みを考えたんです。スタッフが最初から明確な目標を持って参加することもあれば、やっている内に段々取り組みたいことが見えてくる場合もあるじゃないですか? こう云う話をしながら、他のスタッフの話に刺激されながら、今回の自分なりの目標を見つけてもらえればいいな、と云うのもこのスタッフ紹介の企画意図の1つなんです。

関口:はい。

堀川:関口さんがこの攻殻SSSで、今回はこれに取り組もうって云うものを今の段階で整理しておくと、これから佳境になってどんどん大変になったときに、その初心にいつでも帰れるっていうのかな、もちろん途中で変わっていってもいいんだけど、そこに戻れるものがあるといいと思ったんです。関口さんが決起集会で「最後まで集中力を切らさないようにするのが目標」と言われた。長尺の制作現場で制作はそこに気を使うんです。関口さんが、集中力が切れそうになったときにこれを読み返して欲しいと思います。
さて、やっと本題です(笑)。今の段階のことでいいです。この攻殻SSSで取り組もうとしていることがあれば。それから、今回の自分のスタンスはこうですと云うものが何かあればって、既にずいぶん語ってもらいましたが。

関口:何でしょう、取り組みの部分は、いつも大きく目標を掲げていることは無くて、その都度その都度、刺激されるような原画が上がってくとブルブルッ(笑)

堀川:それはすごくよく解る。

関口:うーん、今って言われるとパッと答えられるものが無いんですけど・・・。何だろう、周りから伝わる緊張感とか、監督が今コンテの最終アップを目指して、佳境に入っているのを見ると、「ムムッ、来るな」って感じで、その都度その都度周りから刺激を受けながらテンションを上げていっているようなところがあるので。

堀川:いいモノが上がってくるとブルブルッて云う、それは非常に共感できます。僕はまさにそう云う刺激が欲しくて、ずっとこの仕事を続けられているからね。他のアニメーターにも、関口さんがこう云うことに取り組もうとしているんだって云うことが、いい意味での挑発になるといいなと思ったの。

関口:でも、私が言う前にもう攻殻って云うタイトルが原画さんにそれを与えているような気がしますよ。お願いしてる原画さんもみんな上手い人だし、どちらかと云うと、私の方が周りを見て刺激受けたいなって云う方が強いかも知れないですね。

堀川:それはいい環境だね。

関口:ええ、そうですね。だから、自分はこうしたいって云うよりも、『何かこう、いいものないかな?』って、探しに来ましたって云うことかな(笑)。

「ちょっと背筋が伸びる思い」

堀川:今回は作画監督と云うポジションの責任で、って言葉にすると重いけど、これが私の仕事だと思うって云うところはありますか?

関口:総作監制なので、甘えないように作監頑張りますと云うところですかね。

堀川:他のスタッフに対して一言。後藤さんが「どんどん指摘してください」って言われていたような。

関口:ああ、それ、もう近すぎて、「私も!」って云うことなっちゃうんですよ。例えば、自分が作監の絵を入れるときに、何か夢中になってしまう部分がそのカットの中に1つあったりすると、何て言うんですかね、自分で落とし穴を作っちゃっているって云うか、忘れてポンと抜けちゃうところが結構あったりするんです。そう云う抜けている所や至らないところも結構あると思いますが、攻殻SSSを素敵な作品にしたいと云う気持ちはみなさんと同じです。呆れて放置せず、どうか最後までお付き合い下さい。
どちらにしても、今回はメインのスタッフが年上ばかり、元々自分がフリーになる前にI.Gにいた人たちと、こう云うポジションで組むって云う意味で緊張感はあるんです。

堀川:それはいいね。監督が決起集会でね、「少しでも現場に顔が見えている状態でディレクションしていきたい」(神山監督語録 No.128)って言っていましたよね。それでも、やはり物理的な限界はあるので、僕の今回の試みは、スタッフはこんなことを考えて取り組んでいますよって云うのを、監督に向けて発信していきたいって云うのもあるの。何か監督に対して一言ありますか?

関口:監督にですか? スタッフのみなさんに対してのお願いと同じことと、うーん、そうですね、「現場の意識を監督の熱でどんどん煽って下さい」かな。何か偉そうなコメントで恐縮ですが、監督がたまに「こうしたいんだよね」とか、「こう云う世界観大切だと思うんだよね」って熱く語ると、ちょっと背筋が伸びる思いがするんです。

堀川:毎週の制作ミーティングでは熱いんだけどね、机に座っているときはやっぱりコンテ上げなきゃーって。

関口:それはそうですよね。スタジオに入って優先するのは作業ですからね。まだまだ私のセクションの状況は緩やかなので、もうちょっとカットが動き初めてからエンジンかけてもいいかって(笑)

堀川:私のスピードを舐めないでよって?

関口:そう云うことじゃなくてテンションの問題。攻殻のクオリティーを上げるコンスタントな流れって云うのは、それくらいのペースで予想しておかないとまずいのかなって云うのはありますが。

堀川:では、最後にファンに対して一言。「女性作監の攻殻を見て!」って。

関口:(笑)そんな煽るような。今までのTVシリーズとは何か違うテイストをちょっとでも感じ取ってもらえて、且つ、受け入れてもらえる作品になれば嬉しいなあと思っています。どんなテイストがどう出せるかは、自分でもまだ分からなかったりしますが、今回の私の立ち位置と云うか、参加密度から考えて、自分が参加したって言えるものが少しでも出せたらいいなと思います。なんと言ってまとめたらいいか分からないですけど。

堀川:いやいや、なるほど。関口さんはサラッと言っているけど、経験からこぼれるセリフと云うか、描きながら気づいてきたことを1つ1つ自分の言葉で語ってもらえたので、同じ業界に身を置く者の皮膚感覚でよくわかりました。これを読んで、挫折感を味わうアニメーターが少ないことを願いますよ。この攻殻SSSでも、その培ってきたものを活かしつつ、終わるまでにサラッと何か発見して、またステップアップしてください。今日はありがとうございました。

「作品の中に私のレーゾンデートルを」-付録

関口さんの話を聞いて、楽しく描き続けるためのモチベーションを構成するファクターは何なのかが解ってきました。ずっとアニメーターを楽しく続けられる条件が。そんな訳で最終回は、あなたが試す「アニメーターの血・濃度テスト32」―関口可奈味語録よりです。

Q.01(はい・いいえ)「理屈で言われるよりも見たもの」(実践)
Q.02(はい・いいえ)「原画は描いているうちに気づくもの」(実践)
Q.03(はい・いいえ)「いろんなセクションがあって対話できる環境が理想」(刺激)
Q.04(はい・いいえ)「自分というよりも他からの評価」(評価)
Q.05(はい・いいえ)「数が伸びなかったって云うのは無かった」(資質)〔超難問〕
Q.06(はい・いいえ)「数を気にしたことが無い」(資質)
Q.07(はい・いいえ)「恵まれているんですが、そうだったんです」(運命!?)
Q.08(はい・いいえ)「収入についてはあまり悩んだことがない」(資質)
Q.09(はい・いいえ)「作監をやることが前提」(役割)
Q.10(はい・いいえ)「人の原画から刺激を受けたい」(刺激)
Q.11(はい・いいえ)「真似できそうならこっそりと」(刺激)
Q.12(はい・いいえ)「一本をやったって云う充実感」(達成感)
Q.13(はい・いいえ)「アニメでカッコ良く見せる方法って別モノ」(探求)
Q.14(はい・いいえ)「クロッキーは別」(実践)
Q.15(はい・いいえ)「実用例で覚えていっちゃう」(実践)
Q.16(はい・いいえ)「何を見せたいの?(絵作りは意図優先)」(探求)
Q.17(はい・いいえ)「真似るのが好き」(楽しむ)
Q.18(はい・いいえ)「真似をする楽しさの方、それを動かすのが楽しい」(楽しむ)
Q.19(はい・いいえ)「1回1回の仕事の中で楽しみを見つける」(楽しむ)
Q.20(はい・いいえ)「紙に向かう段階になって静かに楽しむ」(楽しむ)
Q.21(はい・いいえ)「見ていて気になった動きは巻き戻してみています」(探求)
Q.22(はい・いいえ)「一般ファンに向けた絵の説得力は別のところにある」(役割・協調性?)
Q.23(はい・いいえ)「攻殻の世界観があると思うので、許容範囲で」(協調性と役割)
Q.24(はい・いいえ)「そこに何かプラスしていければいい」(役割)
Q.25(はい・いいえ)「表情をしっかり乗せるのも作監の仕事」(役割)
Q.26(はい・いいえ)「いつも大きく目標を掲げていることは無く」(実践?)
Q.27(はい・いいえ)「刺激されるような原画が上がってくるとブルブルッ」(刺激)
Q.28(はい・いいえ)「その都度周りから刺激を受けながらテンションを上げて」(刺激)
Q.29(はい・いいえ)「周りを見て刺激を受けたい」(刺激)
Q.30(はい・いいえ)「『何かこう、いいものないかな?』って、探しにきました」(刺激)
Q.31(はい・いいえ)「TVシリーズとは何か違うテイストをちょっとでも感じ取ってもらえれば」(存在価値と評価)
Q.32(はい・いいえ)「自分が参加したって言えるものが少しでも出せたら」(存在価値と評価)

どうでしょう、ずっと職業としてアニメーターを続けられる、楽しめる血が流れていましたか?
実践、刺激、探求、楽しむ、役割、協調性、達成感、評価、存在価値、資質、(運命)。
これらのファクターのウェートと関係性を考えれば、そこから関口可奈味さんの仕事に対するスタンスが見えてきそうです。モチベーションの本質「これが私の回答である!」(押井さん風)かな。普通はこれに「安定(収入)」も加わると思うけど、馬力の資質がカバーしちゃって「収入についてはあまり悩んだことが無い」んですね。これでは優等生すぎる為、非模範的生活習慣でバランスをとっていると云うことか!?

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