P.A.Press
2005.10.27

第4回 攻殻機動隊S.A.Cスタッフインタビュー/Stance Stance Stance「物語と映像の相乗効果を目指す」 中村 悟(作画監督)

「・・・・(笑)」

中村:BパートとCパートが僕に来るんですね。ちょっとビックリしちゃったんですけど(笑)

堀川:そうなんですよ。そこには制作的な物量のバランスと、監督の戦術があるんですが、今回攻殻SSSスケジュールのキーパーソンは中村さんだと思っているんです。僕も週単位でシミュレーションしてみて、関口(可奈味)さんのADパート(*1)はそれほど重ならずに上手く回るんですよ。何故か関口さんの関わる世界は、そう云う法則とうまくリンクするようなんです。

中村:はい。

堀川:中村さんはまともに被るじゃないですか。

中村:ええ・・・。

堀川:まだ絵コンテが完全には上がっていませんので、これは予想ですが、BCパートを実際にシミュレーションしてみると、中村さんの担当が550カット。平均枚数1カット30~40枚。週ノルマから逆算して、3月には1日15カット、500枚の作監ノルマになるんですよ。

中村:・・・・・・(笑)

堀川:・・・・・・(笑)

中村:この作品で1日15カットはかなり・・・・。たぶんセカンドの後半はそれくらいのペースでしたね。

堀川:そうでしょうね。中村さんの中で封印された、「怒涛のごとく押し寄せる物量」の体感再びでしょうね。一番物量の負荷がかかるのは中村さんではないかと。ここはね、早い段階から制作も注意して見ておかないといけない。

中村:そうですね(笑)。

堀川:攻殻TVシリーズは、1日どれくらいのレイアウトを見られていたんですか?

中村:どうだろう、攻殻で初めて全体のレイアウトに目を通したときで、15カットくらいですかね。

堀川:攻殻で15カットチェックできればいいですよね。1日10カットだとBCパートは、コンスタントに見ても2ヶ月かかります。2月末からAパートの編集も始まりますしね。やっぱりスケジュールの鍵を握っているのは今回は中村さんだなと。制作的に見るとね。

中村:いやぁ、困りましたね(笑)。

堀川:いやぁ、僕も言っててビビッてきましたね。あの内容ですもんね(笑)。

中村:昨日作監打ちをやったんですけど、Bパートの画はレイアウトで勝負したいと思うんですよね。Bパート全体を見て、枚数をかける芝居のカットはそれほど多くは無い印象だったんです。ただ、演出の河野(利幸)さんは細かい芝居を入れたそうな感じでしたので(笑)、もしかしたら、予期せぬところですごい枚数をかける使い方をするのかなって云う気が(笑)。

堀川:そうですね。予想総カット数1100カット中、Bパートが191カットです。河野さんはBパートのみの演出なので、そこに全力投球ですよ。中村さんはBCパートでも(笑)。それは全体を見た戦術が必要かもしれません。

中村:まぁ、なんとか。

堀川:これから入るCパートは更に大変で、吉原(正行)が前半の処理打ちをしていて気を失いそうになったって(笑)。Cパートの処理はシリーズ3本分の労力が必要だって。そう云うところも、今回は質を上げるためにずいぶんこだわっていますよね。
確かに、9スタのドアをガチャンと開けると、今はまだ緩い空気が流れているなと感じるんですよ。中村さんにこんな話しをしても、制作は机の上にカットを積んでからモノを言えと。ただ、全体のスケジュールからシミュレーションをすると、決起集会で監督が、「最初からエンジン全開で行って下さいと云うお願いも含めた、今日はそういった集まりだと思っております」(神山監督語録No.126)と言った、全開で始めなきゃならない数値なんですよね、既に。制作は中村さんがエンジンに早く発火するように、1日も早くカットを積みますよ。

(*1) その後Bパート前半80カット(要確認)が関口さん担当作監に追加されました。

「ちょっと話をしてみたい人」

堀川:これをHPに上げて、今回中村さんがどう云うスタンスで、これから何に取り組もうとしているかをスタッフのみんなに伝えたいんです。外で作業をしているフリーの原画マンの方にもそれが刺激になればいいと考えています。攻殻SSSスタッフに何か一言いただけますか?

中村:そうですね、他のセクション、特に3Dの方とちょっと話をしてみたいですよね。以前3D監督の遠藤(真)さんと、版権ポスターの仕事でやり取りをしたことがあるんですけど、3Dのカメラの可動範囲が狭かった記憶があるんです。その時も確か遠藤さんと話しをしながら解決したんですが、一度レンダリングしたものを、他のソフトで変形させてポスターに使用したんです。もっと柔軟に3Dで対応できないのかなと思うんです。手描きの感じに近いところまで持ってこれるはずなんですよね。ただ、3Dだけで作成した画面で手描き風な感じにするのはかなり難しい。今回の作品に限ったことじゃないんですけど、今後手描きの良さを取り入れるためにはどう云うやり方があるのか、そう云うことをちょっと話してみたいな。

堀川:カメラワークではないんですよね?

中村:カメラワークじゃないですね。画面の納まり方。画面の中に入れたり、外したりって云うことが、もっとフレキシブルに出来るようなシステムでもあれば一番いいなと。

堀川:3Dだけで?

中村:3Dで。

堀川:3Dでそれができちゃうと、さらに手描きアニメーターの領域が侵食されるってことになりますね。

中村:うーん、でも、最終的にはそれでもいいと思うんですよね。要するに自分がイメージしたものがそこにあれば。何を見せたいかって云う意図がはっきりわかる画面になっていればそれでいいんですけど、今の段階ではまだ、ここではこのキャラクターをしっかり見せなくちゃならないのに、モデリングされたものがポンと、ただそこに置かれていると云う画面になりやすいんですよね。画を構成したって云う感じではなくて、そこに置いたカメラの画に、ポツンと置かれたキャラクターがたまたま写っている。

堀川:3D出力されたレイアウトが?

中村:ええ。すごく考えて、演出意図を外さないギリギリのカメラ位置で動かしているんでしょうけど、押さえ込みが弱く見えちゃうんですよね。

堀川:その演出意図があって、見せたいものに合わせて嘘をつかなきゃいけない。

中村:そうなんですよね。だから結構古川(尚哉)さんのレイアウトを見ても、正確にはパースは嘘をついているんですけど、圧倒的に見せたいものがはっきりしている。このカットで何を見せなくちゃならないのかが解る。

堀川:そこに手描きアニメーターの存在価値があるとも言えますけど、実写ってその融通はどうしているんでしょうね? そんなに簡単には嘘をつけないですよね?

中村:いやぁ、そんなことないですよ。やっぱり実写も見せたいものは見せるし、見せたくないものは画面に入ってこないように処理していますよ。

堀川:アニメよりコントロールしにくいですよね?

中村:それはそうですね。でも、意図的にその部分を影にしたりとか、入れたく無いものは光で飛ばしちゃって、見えないようにするって云うことは平気でありますよね。実際の光源と影が正確なものは、ドキュメント映像で無い限りないですよね。割りと光の方向も、普通の状況でありえないようなところから被写体に光を当てて立体感を出したりとか、やっぱり加工されていますよね。

堀川:そうですね、レフで。そう云う目で「ラブ&ポップ」を見ても面白いですね。

「3Dと画面構成」

堀川:3Dスタッフが考えていることには僕も興味があるんです。このスタッフ紹介でも遠藤(真)さんに聞こうと思っているんですけど、今3Dの領域がどんどん他のセクションを侵食している。3Dレイアウト出力に関してもそう。この状況のどこかに歩留まりはあるのか、この現状を3Dスタッフはどう思っているのかって云うのは、僕も聞いてみたいことです。でも、そうなったとしても、遠藤さんが「これはある意味両刃の剣だけれど、それでも3Dスタッフは前に進んで行く、前倒しでやって行く」と決起集会で言われた。

中村:ええ。

堀川:それは非常に興味があるところなんですよね。フル3Dではなくて、上手く手描きアニメーションと融合されているようなものを目指しているのか、「ベルヴィルランデブー」のような、ああ云う融合の形なのかなとは思いつつ。遠藤さんが言われるように「攻殻の3Dは、前面に出て行くものが目標ではなくて、作画ありき、背景ありきの3Dだと思っている」と。そのスタンスの先にある目標を、是非今度聞いてみたいと思っているんです。
中村:3Dは本来背景とか小物じゃないと思うんですよ。それ単体でアニメーション作品がいくらでも作れる技術だと思っているんです。手描きのキャラクター、手描きの背景ありきで、その中での3Dって云う話は、攻殻S.A.Cに関しての方向性だと思うんですよね。もしかしたら遠藤さんも、いずれは3Dだけの作品を作って見たいと思っているとは思うんですけど。

堀川:攻殻に関しては作品との折り合いをつけているみたいですよね。

中村:ええ。

堀川:やっぱりワンフロアーで作業していても、3D班とアニメーターとの対話の機会がなかなか無いので、そう云う機会を作ってもいいですよね。もっとスタッフ全体の話し合いの場を持とうよって監督も言っていたんですよ。

中村:そうですね。

堀川:それは面白いテーマかもしれないですね。

中村:今のところメカの動きに関しては、作画でラフだけ入れて、アニメート自体もう3Dの方がされているわけなので、そう云う意味では今後キャラクターさえ3Dで作れれば、いくらでもアニメートできるようになると思うんですよね。ただ、どうなのかな、それをアニメートできることと、画面の構成はちょっと違うのかなと思うところがあります。やはり、ここで何を見せたいのかを意識した画面が作れないとね。その辺の話、画面構成でどこまでフレキシブルな対応が出来るようになるのかを、3Dスタッフに聞いてみたいなって云うのはありますよね。

「辞めてたろうな」

堀川:監督にアピールしたいことはありますか?

中村:そうですね・・・この作品、攻殻S.A.Cに最初のころから参加させてもらって、本当に感謝しています。たぶんこのシリーズをやっていなかったら、本当にアニメーターを辞めてたでしょうね、ワッハッハ。辞めてたろうな。もういい加減、何かこう、疲れたっていう感じで。やっぱり刺激が、TVシリーズは反応が返ってくるのが早い。放映されるとすぐにネットに書き込まれる。駄目なら駄目なりに。

堀川:そんな反応がありましたか?

中村:ありますよ、ええ。やっぱり色んな人がいますよね。良いって言う人もいれば、良くないって言う人もいる。良くないって言う人は、どこが良くないのかなぁって考える。全く全部に影響されるわけでは無いですけど、でも良い悪いの反応が書かれているのを見ると、『じゃあ、次は!』って云う気になるんです。

堀川:作監の立ち位置は特にね、作品1本の作画の責任を負っていますからね。

中村:そうですね。本当にこの作品が出来たっていうのが嬉しかったですよね。

堀川:最後にファンに対して一言ありますか?

中村:攻殻S.A.Cの1stと2 ndを見た人は、これは見ないと損するでしょう(笑)。あまり言っちゃうと、ネタがバレちゃうのはマズイので(笑)。

堀川:そう、内容に関しては言えない(笑)。

中村:これを見ないと勿体ないよって感じですよね。

堀川:ぼくなんか一言のセリフにポロポロきてしまって。そこがP.A.の担当になって、「いいんですか、ここ貰って?」っていう感じです。

中村:ええ。

堀川:Cパートの絵コンテ完成もいよいよです。スケジュールを考えると、もう緊張感を超えていますが。

中村:そうですね・・・

堀川:そう云う部分で、決起集会でも言ったんですけど、みんな「この作品は妥協無くやりたい」と言ってくれるんですけど、今週一週間の目標値をまず達成する、それを毎週コツコツと積み重ねた先にしか妥協の無いものはできないのでね。

中村:うん。

堀川:今のうちから警笛を鳴らしていこうと思います。最後は流しちゃうような作り方はしたくないですから。

中村:そうですね、そうはしたくないですね。

堀川:そのときになって、もうちょっと12月、1月に頑張れたんじゃないかなんて後悔をしないように、最初からエンジン全開のつもりで制作も頑張りたいと思いますので、「鍵を握る男」、宜しくお願いいたします。

中村:はい。

堀川:今日はありがとうございました。


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