後藤隆幸 キャラクターデザイン・総作画監督
関口可奈味 作画監督
中村 悟 作画監督
古川尚哉 レイアウト作画監督
橘 正紀 演 出
河野利幸 演 出
吉原正行 演 出
遠藤 誠 3D監督
田中宏侍 撮影監督
「やりたいことは決められる」
堀川:もう10年、ずっとフルカワナオヤと読むんだと思ってた。
古川:あんまり読み方に無い漢字を親父が色々調べてつけたらしいけど。
堀川:今回はフルワカヒサキをみんなに知ってもらおうと。
古川:目立つようなことをやってないからなぁ。地味なパース合わせとか、形合わせとか、そう云うレイアウト的な仕事と、ヘルプで原画をやるようなことがほとんどだから。
レイアウト作監を置くって云うことは、それなりにまとめて1つの範囲をやらなきゃいけないんだけど、手が遅くてその辺がいつも・・・もっと手が早ければ。レイアウトといいつつも、いつも原画ラフくらいまで描いていくといつのまにか時間が経っている。
堀川:あのころガイナックスでは将来演出になりそうな人材のアニメータを採用したって聞いたことがあるのね。
古川:僕等がガイナックスに入った頃は、ちょうど劇場映画を作ろうとしていて、わりといっぺんに動画を入れた。まぁ、使えそうなら入れておけって云う感じで。そのころはナディアを終えた人達がそのまま原画をやっていたから(原画の)頭数もしっかり揃っていたし、劇場の絵コンテも進んでいなかった。その流れで純粋に動画を描く戦力を採用したから、そう云う意図は全然無かったと思いますよ。
堀川:ガイナックスでは原画をやって、外に出てしばらく作画を続けた後、たぶん初演出はメダロットの26話?
古川:その前に1回作監をやったことがあったんだけど、なかなか思い通りにならない。原画作監の段階では絵を一生懸命直そうと思っても直せないものがあるから、まずレイアウトの段階でこう云うふうにしたいって云うものを描いていくと、どうしてもやっぱり間に合わなくなってしまって・・・。レイアウトをキチッと直していくと、原画作監と両立できない。だったら自分でレイアウトを直す。まずレイアウトを直さないとどうにもならないと思った。その時メダロットで演出をやったのは、モーリー(守岡英行)が作監やってくれるって云うから「演出をやらせて下さい」って。演出としての作業と言うよりは、ほとんどレイアウトを直していた。演出って云う感じじゃなかった。その前の作監のときからずっとレイアウトばかり直していましたね。実際演出を担当したのはあれだけだった。演出的な自分のプランがあって、やりたいって云うところまでは行っていない。
堀川:将来演出的なセクションに行こうと思ったんだけど、どこかで、それはレイアウトでコントロールしてしまえば、全体を通して自分のやりたいことはある程度できるんだと気づいたのかなと思ったんだけど。
古川:そうですね。気づいたって云うか、レイアウトの面白さは、そこである程度やりたいことは決められるから。タイミングとか動きにしろ、ある程度はやりたいこと、こんな風にしたいって云うことは決められるじゃないですか。絵コンテではそこまで細かくはコントロールできないし、原画だとそのカットに縛られちゃって、それだけになっちゃうことが多いから。レイアウトではそれができる。そう云うことをやらせてもらえるって云うことで、レイアウト作監。作監って言えるところまで全部チェックしているわけじゃないから、そう云う名前が付くのはちょっとおこがましいところがありますけど。
「シーンを支配するような仕事」
堀川:TV攻殻は? あれは全体にレイアウト作監入れたの?
古川:やっぱり範囲仕事であったり、最終的にはほとんど原画でだったから。
堀川:その作品をコントロールしたいと思ったら、レイアウトを一本通して見たい、そういう欲求があるわけではない?
古川:もちろん、それれはもう見たいんだけど、スピードが追いつかない(笑)
堀川:原画に近いところまでラフを描いているからじゃない? かなりラフを入れているよね?
古川:うーん、やっぱりラフを入れないことには何も伝わらないだろうなって云うところから、ここまではラフを入れなきゃいけないなって云う義務感が自分の中に常にあって(笑)。楽しくて楽しくて、こんなにバリバリ絵を描いちゃったぜって云うところまではなかなか行けずに、これは間にこれくらいラフを入れておかないと分からないな、とか、いつもそんな感じですね。
堀川:自分の貰ったこのシーンを最高のものにするんだ、そう云うモチベーションではなくて、そちらにシフトした経緯が知りたいな。
古川:もちろんそちらの方が本懐だろうけど、なかなかそこまでの原画の実力が身に付かず(笑)
堀川:そうなんだ。部分より全体をコントロールする喜びを目指したんだと思っていたけど。
古川:全体をコントロールするところまでまだやれていないでしょうね。
堀川:目標はそこにある? 経験積まないと判らないよね。大ラフでもここまで押さえておけばコントロールできるんだとか、ここまでラフを入れておかないと駄目なんだとか。もちろん原画のメンバーにもよるだろうけど。
古川:たぶんそれは同じことだと思いますけどね。それだけ完璧なカットが描けるんだったら、そのシーンを支配するような仕事が当然できてくるだろうし、1カットだけ独立していいカットなんて存在しないですからね。やっぱり1つのシーンでまとまって輝いてきたりするものだから。それを1つずつ何とかできないものかと。
堀川:いろんな人にちょっと聞いてみたけど、アニメーターのモチベーションとしては、自分の担当パートが目立つような仕事がしたいと。それは自然な欲求だと思うけどね。
古川:もちろん、それはそうだと思いますけど、何だろうな、1カットだけ目立つって云うのは、見ていてどうなんだろうなって。描いている側じゃなくて見る側に立ったときに、それは冷めないものかなと。そちらの方がストッパーとしてかかっちゃう。
堀川:それで小単位よりも、全体をコントロールする手段を探した?
古川:両方なんですけどね(笑)。難しいところ。1カット格好いいって云うのもそれは正解なんですよ。特に自分たちのような人間からしてみれば、それだけで「スゲー」って。だけど、もちろん普通に見ている人は全然別の見方だから。もっとそのシーンの雰囲気とか、そう云うものはそれで大事だから。それがこう云うことかなって考えながら描いているけれど、なかなか理屈的なもので理論武装が身に付かず、いつも生理的な感覚だけでやっているなぁって云うのが反省点ではあるんですけど。何だろうな、こう云うふうにして、こうやればこうなるって云う、理論があれば統一されたものになるんだけど、その時の勢いで描いていくと通して見たときに、いまいち流れが良くならなかったなって云うときもあるから。1カット1カットで考えて見ていると。
堀川:ふーむ、それも経験なのかなぁ。
「いや、ズルズルと(笑)」
堀川:攻殻の前はジブリ?
古川:「千と千尋の神隠し」は自宅でやっていた。家で仕事をしていると、どんどん自堕落になっていってしまって(笑)。
堀川:そうだよね
古川:時間を決めて仕事をするとか自己管理が難しくて。そのころ四畳半に間借りしていたので、そこで仕事と生活を両立させるのはちょっと厳しかった。
堀川: TV攻殻に参加したときには最初からレイアウト作監として?
古川:話を貰ったのはまだスタッフを集めているような初期だったから、「どう云うことをやりたいですか?」って訊かれて。「やりたいものがあるんだったら言ってみて下さい」っていうことだった。いつも自分の中では、とりあえず作画で何とかできるようにならないことには、他のことをやっても自分の中で形にするのはなかなか難しいな、とは思っていたので、まず絵を描こうと決めた。その段階で、作監だとやっぱり現状は絵を統一する作業がメインになってきちゃうから、それだと個人的にはストレスが溜まってしまうし、かと言って原画をやると、この(デザインの)線の量だと、本当に1話に対して10数カットとか、20カットになってしまいそうで、それはそれで狭くなっちゃう。自分から希望したのか、提示してくれたのか忘れちゃったけど、レイアウト作監だったら、もう少し色々なものに手を触れるチャンスがあるのかなと。
堀川:その話数全体のクオリティーアップにも貢献できるかなと。狭い部分じゃなくてね。
古川:そうですね。クオリティーアップと言い切れるかどうかわからないですけど。
堀川:古川君がこの仕事を依頼されたときに、参加しようと思った動機はどんな部分? あのリアルなキャラクターデザインに対しての抵抗感みたいなものは無かった?
古川:もともと攻殻の原作大好きとか、そう云う人間では無かったし、どちらかと言えばドライでクールな刑事物と云うよりは、もっと熱いドラマチックなものを求めているところかな。物語としてはすごく面白いんだけど、まずは作画的にも理解できるって云うか、作画の世界観はとっつきやすかった。リアル系はなんとかやれるかなって。本当はもっと線の少ないものをやりたいなと、いつも思いつつ(笑)
堀川:そう思いながらもう4年くらい続けられている、そのモチベーションの維持ってどうやっているんだろう?
古川:いや、ズルズルと(笑)
「スタイリッリュにまとめようともしていない」
堀川:どこかで「やり切ったな」と思うことが無かった?
古川:やり切っていないからたぶん続いているんだろうけど。もうチョットこうしたらよかったなって、いつも思いながらだから。たぶんやり切ってこんなものかと思ったら、他のものをやっていたかもしれないけれど。
堀川:TVシリーズのローテーションで加われたのが良かった、次はこうしてみようって云うものがすぐに形に出来たっていうのはね。
古川:うーん、駄目だしの方が多かったって云うことだろうけど。
堀川:S.A.Cの1話から参加して、2 nd GIGの最終話までずっとやって見て、何か獲得できたこととか気づいたことってある? そのポジションで。レイアウトに興味がある人が少なくなった、とかね。
古川:どうなんでしょうね。上手い人は普通に上手いし、普通の人は普通だから(笑)。それはあんまり無いんじゃないかな。ただ、やっぱりデザインの線が増えていっちゃっているから、線に囚われちゃっている部分がある。今のアニメーターは大変なんじゃないかなって思いますよね。立体を塊で捉える前に、線を1つ1つ拾うことに追われちゃうじゃないですか。と、いいつつ自分もそう云うところが出てきちゃうけれど。
堀川:なるほど。これはいろんな人に聞いているんだけど、今回の攻殻SSSをいっしょにやろうってアニメーターに声を掛けるときに、作画のセールスポイントは何だと思う?
古川:うーん、どうなんだろう、制約の方が多い気がするからなぁ。
堀川:(笑)そうだよね。制約が多いものは敬遠されるんだよね。クオリティーも求めるし。
古川:制約って言っても、何でもでもかんでもやってもいいって言うわけじゃないけど、世界観からあまり逸脱するものは描けないし。不条理なアクションだったり。
堀川:それに対してはどう思う? あの世界観を作り上げるには必要なものだと。
古川:自分がやりたいものがそこに無いんだったら難しいだろうけど、こう云うものがやりたいって云うものが見えているんだったら全然入ってこられると思う。わりとこう、渋いって云うか、実写チックなものをやりつつもダサさにならないところが攻殻の作画の魅力なのかなと。リアルを追求しつつもダサくならずに、かと言って妙にアニメチックにスタイリッシュにまとめようともしていないあたり、そういう方向性では色々試せるんじゃないかなと。
堀川:今それを探求しようとしている若手がどれくらいいるんだろうかと思って。緻密なレイアウトを描くことには興味は無いだろうなぁ。
古川:でもI.Gに入ってくる人は、I.Gの作品を見て入ってくるわけだから、そこに興味があるはずってことは無いんですか? 全然ちがうんですか?
堀川:劇場作品を見て入ってくる人はそうだろうけど、それでもレイアウトよりも動かすことに興味あるでしょう?
古川:もちろんそうでしょう。僕だって動かしたいですよ(笑)
堀川:リアルな芝居を探求する人も減っているから。
古川:リアルな芝居と言うよりは、リアル派手系なんでしょうけど。それこそ伝統的な、しっかりとしたリアルな芝居は俺も描けない。
堀川:そこを狙っている若手が減っているので、アプローチしようとすると40代前後のアニメーターになってしまう。
「作画がでしゃばらなかった」
古川:アニメーターを勧誘するのは作品でしかできないんじゃないのかなぁ。
堀川:古川君は作品で選ぶ?
古川:好きなアニメの作品に参加して、この作画が好きだと云うことになれば、若手もそれが描けることを目指すんじゃないんですかね。
堀川:何で仕事を選ぶかって云う選択動機を聞いたの、いろんなアニメーターに。自分を主張できるとか、それも自然な欲求なんだけどね、それか、今はアニメーターのネットワーク、借りがある人に頼まれたからだとか。それと、参加しているメインスタッフ、監督、作画監督、メインアニメーター、演出で選ぶ。この人といっしょに仕事をしたいと。これも理解できる欲求だよね。原作で参加しましたと云う話はほとんど無かった。中村悟さんは、ドラマとしてのこの作品の面白さが参加動機だったようですけど。ハイクオリティーな作画の作品にはずっと参加してきたけれども、ドラマとしても面白いものはなかなか出会えなかったと。
古川:まぁ、良くも悪くもそう云う意味では、攻殻は作画がでしゃばらなかったって云うことだから(笑)
堀川:(笑)
古川:良し悪しなんですけどね、作画が良すぎると云うか、作画だけになっちゃうって云う。
堀川:けっこうあるもんね。
古川:うん。もちろんアニメーターとしては、見ていてそれはそれで楽しいし、ファンとして見てもそれはそれで楽しいんだろうけど。
堀川:この前子供がメダロットのDVDを見ていて
古川:何歳なんですか?
堀川:いっぱいいる。
古川:上は何歳なんですか?
堀川:中2かな。
古川:中2はアニメを見るのは好きなんですか?
堀川:富山はテレビ東京系が無いからね。ケーブルTVはあるけどアニメは見ていないね。実写ドラマばかり見ている。
古川:俺が作画意外で見直すアニメは本当に昔の、80年代、70年代のアニメになっちゃいますけどね。
堀川:それは何で? ストーリーの部分で惹かれる? 熱い?
古川:それ以降の作品にストーリーで惹きつけられるものがやっぱり無い。
堀川:80年代以降それは何が一番変わったの?
古川:うん、全体的なものですけど、一番大きいのはドラマ志向の人が脚本をキッチリ書いていた部分。アニメを見て育った世代が制作する側になってきてから、作画もどんどんアニメーターがアニメを見て描いているものになっていった頃、そのあたりから独特の世界に入っていく。その頃からちょっと違うかもしれないって云う意識が働き出すんですかね。
「バリバリの作画オンリー高校生」
堀川:10年やってみて、原画に対する、作画に対する考え方とか、自分のなかで探求したいものは変わってきた? 価値観と云うか大切に思っているものは。
古川:大切に思っていると云うよりも、自分の実力の無さを痛感するばかりですよ(笑)。こう云うふうに描きたいとは頭の中で色々思うんだけれども、こう云うものが描きたいって思っていても、ああ、出来なかったって云うもののほうが大きいから。
堀川:20代のどこかの段階で、俺は行けてるぜって頃が無かったの?
古川:うーーーーん、どうだろうな。高校時代は、わりと作画に目覚めて一生懸命絵を描いていたんだけど、その頃ちょうどアニメの質が変わってきた時代で、急に面白く無くなってきちゃった、自分の中でね。このままアニメーターになっていいものなのかなって悩みだして、一旦そこでアニメを見なくなった。高校卒業してから受験勉強を始めて(笑)、浪人して大学に行ったんですけど、大学を出て何をやろうかなと思った頃に、「ふしぎの海のナディア」を見たんですよ。ナディアは古いドラマの作り方をしているじゃないですか?
堀川:うん王道。
古川:あ、ちゃんと今でも作ろうと思えばこう云うアニメも作れるんだ、と云う思いでガイナックスに入ったんです。本当に高校生の頃はバリバリの作画オンリー。もちろん物語の良く出来たアニメは好きで見ているんだけど、自分も本当に作画オンリーで、それこそ目立つアニメーターになりたいなぁ、くらいのことを思ったんだけど、一旦アニメを見なくなって、もう一度アニメを見たときには、ちょうど時代もそう云う作画の波は過ぎちゃっていて、わりとしっかりとした、リアルなんだけど、それをアニメ風にスタイリッシュに仕上げるリアル系の作画がちょうど出てきたところで、そう云うものを初めて目にして、そこで変わったということなのかなぁ。一旦アニメを見なくなって、時間を置いて見直したときに多少見方が変わった。