後藤隆幸 キャラクターデザイン・総作画監督
関口可奈味 作画監督
中村 悟 作画監督
古川尚哉 レイアウト作画監督
橘 正紀 演 出
河野利幸 演 出
吉原正行 演 出
遠藤 誠 3D監督
田中宏侍 撮影監督
「演出したいんですけど」
堀川:河野さんにまず聞きたかったのは、今、演出業務がどう云うものになっているかということです。演出を目指してこの業界に入ってくる人は多いと思うんですが、その人たちにとって夢のある話になればいいんですけど(笑)。
そもそもアニメーターだった河野さんが演出になろうと思ったきっかけは何なんですか?
河野:実は俺、最初から演出志望で、一番最初は動画マンから始めたんですけど、
堀川:それはアニメアールですよね?
河野:いいえ、その時は東京にいたんですよ。大学を卒業して、アニメは作りたいなと思ったんだけれどもどうやって作るか分からないので、東京の専門学校にバイトしながら行きました。途中から専門学校にはあまり行っていなかったんですけど(笑)、ちょうどその頃谷口守泰(*1)さんが『機甲猟兵メロウリンク』でずっとサンライズ1スタにいたんです。それで、谷口さんに会いに行ったら、「そんなら動画せいや」と言ってもらえたので、そこでチョロチョロ動画をもらって。
堀川:動画を誰かに教えてもらったんですか?
河野:一応専門学校で習っていたので、分からないときは専門学校の先生に聞いたり、直接1スタの動検さんに見てもらったりもしたんですけど。で、ふた月くらい動画をやって、「演出したいんですけど」
堀川:(笑)「生意気な!!」って言われましたか?
河野:いやぁ、そんなことも知らないで。サンライズの人が「制作からやりなさい」って(笑)
堀川:じゃあ制作を?
河野:いや、制作は経験ないんですよ。俺は車も転がせないし、制作はおもいっきりコミュニケーション能力が必要で、大変なのを横で見ていたので、『ちょっと制作は無理かなぁ』って。
堀川:演出もコミュニケーション能力は必要でしょう?
河野:いやいや、そうなんですけど、当時はあんまり「ヨオ!!」(挙手)とか言うようなタイプでは無かったので(笑)、「とりあえず絵を描くのも好きなのでアニメーターで暫くやってみます」って。それがズルズルと。
堀川:大阪のアニメアールには行かれたんですよね?
河野:実家が神戸なので谷口さんに話をしたら、「ほんならアールに来てやれや」みたいな感じで、「ほんなら行きます」と。89年の3月末くらいに初めて大阪のアニメアールに行って、2000年の3月まで、アールに11年間いました。実質99年の夏くらいからジーベックに出向していましたけどね。
*1谷口守泰:アニメアール代表
「やっていることはあまり変わらない」
堀川:アニメアールには演出もいますよね?
河野:たぶん吉田徹(*1)さんくらいだと思いますけど、吉田さんも音響作業ではちょくちょく東京に出てこられているみたいですね。
堀川:吉田さんの仕事を見ながら演出の勉強をしたんですか?
河野:そう云うわけではなかったんですけどね。どこまでアニメーターとして行けるだろうと思っていたんです。俺原画は無理かも、と思っていたら一応原画ができるようになって、こんなものかなと思っていたら作監やるようになってっていうような感じで、このまま作画で行くのもいいのかもと思っていた時に、何かのプレゼン企画用のキャラクターデザインの話が来たんですよね。それが散々だった。同じ苦労をするのなら、デザイン系ではなくやっぱり初志貫徹で演出の方に行こうと思いました。
堀川:演出でやりたいことはその時見えていたんですか?
河野:映画を作りたかった。学生の頃に映研で映画を撮っていたので、そう云うモノ作りをしたいなと思いながらやっていたので。
堀川:なるほど。最初はジーベックのTVシリーズの演出ってことは、最初から鍛えられたんですよね?
河野:そうですよね。ジーベックの作品は『快傑蒸気探偵団』の作画監督だったかな、アニメアールが作画グロスで受けていたんですね。俺はそれ以降ずっとアール内のジーベック班担当でやっていて、本郷みつる監督の『女神候補生』(2000年)の頃はインフラがデジタルに移行する時期だったので、やれアニモだ3D だって。こりゃいかん、解らんって云うことで、「ちょっとすんません、そっち(東京)に行きます」と。I.GのINGビルで打ち合わせをしたり、3Dやアニモの作業を見せてもらって、そのうちに下地志直(*2)さんと羽原信義(*3)さんに呼ばれて。
堀川:アール内ジーベック班の演出をやっていたんですか?
河野:いや、作監です。演出はジーベックに移ってからです。その頃は作監をやることで、何か演出に対する自分の思いを代償していたところがあったんですね。だから演出になった今も机の上でやっていることはあまり変わらないんです。作画監督時代も原図から直してラフを描いて、原画の動きを直して、シートを全部直して、みたいな感じで。絵を直すだけじゃなくて演出っぽいことはやっていたんですよね。「ここはこれくらいマルチ(*4)にしましょう」とか、たまたまよく組んでいた演出さんが、「ハイハイ、やって下さい、どんどんやって下さい」って云う感じだったので。ジーベックで『ラブひな』まで作監をやって、『ゾイド』から演出ですね。今から思うと『ゾイド』の演出は5、6本かな。それから『パラッパラッパー』を2本やって、その後は攻殻S.A.Cの1話です。
堀川:演出を始めたのは30を越えてからなんですね?
河野:もう、スロースターターで(笑)。
*1吉田徹:アニメアール所属 演出・アニメーター
*2下地志直:株式会社ジーベック代表取締役
*3羽原信義:ジーベック所属 演出・アニメーター
*4マルチ:撮影用語 焦点距離で遠近感を出すために、複数のパネルを撮影台に組む。
「本来演出とは」
堀川:作品のクオリティーを守る演出業務の現状をどう思いますか?
河野:俺は攻殻の現場はすごく恵まれているなぁと思いますね。
堀川:橘(正紀)君もそんな話をしていましたね。それはどういう部分ですかね?
河野:俺自身橘さんほど他作品に演出として携わっていないんですけれども、攻殻の現場は、本来演出とはこう云うものではなかろうかと抱いていたイメージに近い演出ができると云う感じですね。演出とは何をしている人なんだろうかと云うことを、たぶん一般の人は良く分からないと思うんです。けれども、それなりにこのアニメ業界で、あるいは映像を作る業界で仕事をしていて演出業務をイメージした場合に、俺は本来こう云うのが演出業務なんじゃないかと思う、そのイメージに近いことが攻殻の現場ではできるなと思いますね。すごく制作状況の悪い現場だと、本当にもう淡々と演出はただモノを捌くだけ、みたいなことになってしまうかも知れないんですけれども。
堀川:攻殻ではみっちり仕込んでいける?
河野:結局TVシリーズで作品を量産する場合はどうしても、その作品を作るプロセスをシステム化して型にはめていくところがありますよね。だから芝居も複雑な演技をさせるよりは、パターン化した芝居の組み合わせで作っていくとか、日本人はわりとそう云う型が好きですから、すんなり受け入れているところだと思うんですけれども。攻殻はそう云う、「ハイ、ここはパターンB、パターンCを組み合わせて」っていうよりは、シリーズ1本とか、その話数1本の中で導き出してくるシーン設計とか、芝居って云う作りがしっかりしている気がするんですね。あんまりそう云う凝ったことの出来ない現場だと、本当にパターンを組み合わせていくほうがシリーズとして平均的なものが出来るとも言えるんですけれども、そのへんがね、攻殻と云う作品に求められているもの、この現場ではそれが演出できる、そう云う印象があります。
「玄関先でチョチョッと」
堀川:河野さんは自分がアニメーターだった時に、どんな演出と仕事をしたいと思っていましたか?
河野:そうですねぇ、俺は自分で何かものを作っているときに、どうしても自分で見えない部分ってありますよね? 例えば、ここをこうすればもっとよくなるのに、とか、そう云うところを見抜いて指摘してくれる演出さんと仕事がしたいですね。俺自身も、人にもよりますけどね、例えば、この人はすごくまだ駆け出しのようだけれど意欲を持って取り組んでいるなって云うような人がいたら、こう云うところをこうしたらこうなりますよってアドバイスはしたいですね。そうすると、その人はグンと伸びたりして、ああやっぱりよかったと思う。そう云うことを何回か繰り返すうちに目に見えて上手くなってくる人もいるんですね。そうするとこちらもやっぱり嬉しいし、それで、また河野さんとやりたいですって言ってくれる人も何人か出てきたんですね。人によっては演出指示を、「うーん、何書いとるねんこいつ」って思われるかもしれないですけれども、その人がちょっと行き詰っている部分があったら、じゃあここはこうしたらいいんじゃないですか、とかそう云う示唆をできたらなと思っていますね。
堀川:今回の攻殻SSSではスタッフとのコミュニケーションを積極的にとっていきたいと云う話を決起集会で河野さんがされて
河野:はい。
堀川:特に演出と同じスタッフルームで作業をしていないスタッフとのコンセンサスをどうとって行けばいいだろうって云うことを僕もずっと考えていて、9スタは比較的出来ているんですけれども、それでも原画マンのほとんどが外で作業をしているじゃないですか? 作画の打ち合わせ後はメモ書きでのやりとりでしかなかったりとか。
河野:ええ。
堀川:いろんな原画マンの話を聞いてみると、特に若い頃は演出や監督からのリアクションが非常に刺激になったと。上げたものに対する適正なリアクションが非常にやる気に繋がったって言う話を聞いたので、じゃあ、今後面と向かってコミュニケーションを取りづらい現場環境で、どう云う対話の方法があるだろうと考えているんです。それに対して河野さんが今回目標とされたことで、何かアプローチをしている、こう云うことをやってみようかなって考えられたことはありますか?
河野:そうですねぇ、決起集会の時のね、『みんなと話をしたい』ってやつなんですけれども、俺はいつも仕事をするときは何かテーマを決めてそれに向かってやるっているんです。今回の攻殻ではテーマを2つ決めて、その内の1つが『みんなと話をしたい』、つまりみんなで作る。あれは自分自身に対する意識をそう持てよって云う意味でのことだったんですけれども、今堀川さんに言われて、具体的にじゃあどう云う対策がとれているのかとなると、やっぱり未だ成功には程遠いかなって云う気がしています。ただ、自分の意識としては、そう心がけているところがあって、今まではものすごい情報量を捌かなきゃいけないと云うことがあったり、攻殻をやりはじめたころにちょうど生活環境が変わったりって云うこともあって、とにかくもう自分の持っている処理能力をフルまで使い切って一杯一杯だったんですよね。だから何かスタッフとの間でやりとりするにしても、自分の心構えに全然余裕が無かった。何でしょうね、「いや、ちょっとすみません、一杯一杯なんで」(笑)、玄関先でチョチョッと、「ハイ、これでお願いします」みたいな感じだった。
「まぁまぁ、中へ入ってもらえますか」
河野:今回は表玄関はとりあえず開けておきますって云う感じで。それで誰か来たら、「まぁまぁ、中へ入ってもらえますか、こんな感じなんですけど」っていうような意識を持ってやろうと思ったんですね。具体的には、とりあえず演出プランとか、演出が持っている戦術をブラックボックス化せずにできるだけ解ってもらえるように話そうと。それはもう言ってみれば当たり前のことだと思うんですけれど、自分にはそのへんが少し欠けていたのかもしれないなと反省して、こうしましょうって云う相談が何かあったときに、「俺はこう云うふうにしたいからこう考えて、じゃあここはこうしてください」ってオーダーだけ出すやりかたも今まであったことを反省してですね、そうじゃなくて、まず最初の打ち合わせの時点で、「このシーンはこう云う感じなので、俺はこう考えているんですけど」みたいに提案するところから、もっと今まで以上にスタッフと話しをしていこうと。そうすると、おおもとの戦術の部分を相手にもし分かってもらえたら、その時点で「あ、だったらこうはどうですか?」みたいなことも返ってきて、それもどんどん吸収していこうと思う。今までより間口を広くして、みんなで作っていくと云う意識を忘れないようにしようと思っています。だから実際日々の作業の中でやたら無駄口を叩いているとか、そう云う意味ではなくて(笑)、あまり代わり映えはしないんですけれども、何かあればすぐに「ハイハイ」って飛んでいくとか、すぐ来て下さいねって云うのももちろん意識の上では持っているんですけれど、具体的に上手くいっているかと言われればちょっと疑問視するところですね(笑)。みんなやっぱりそれぞれが持っている自分の業務で一杯一杯って云うのもあるのかな、と思うんですけれども、メモ書きのコミュニケーションが多くなるのはしかたないんですけれど、そのメモにしても何か「ココのバトーはこうして下さい」って書く前に、「ココでこのことを知っているのはバトーだけなので、だからトグサとは違います、イシカワとも違います」その、何かもうちょっとアニメーターに対する指示なら、アニメーターが納得してやってもらえる指示を出そうと。こう話していますと「オマエ、それは当たり前のことだろう」って云う突っ込みが入りそうな気がしますけれども(笑)。
「くすぐる ・ 緊張感 ・ 見てもらいたい」
堀川:決起集会のときにもう1つ、「演出は現場の指揮官だと思う」、「いっしょに闘っているスタッフに信頼される指揮官でありたい」と云う話をされたけれども、現場の指揮官にとって上手くスタッフを巻き込んでいく、導いていくって云うのは非常に大事なことだと思うんですよね。
河野:そうですねぇ。
堀川:演出が「待ち」の姿勢ではまずそれはできないと思いますよ。今のアニメーションのスタッフは、積極的に行動してアピールする人も少ないと思うんです。どんどん強引に巻き込んでいく必要がある。いくら作打ちで演出が能弁に語っても、暖簾に腕押しだったのかなと云う上がりものも見るので
河野:はい。
堀川:如何に乗せて、巻き込んで、作品をやる上での継続的な刺激、目標を与えられるかですね。
河野:そうですね。
堀川:そう云うことで何か考えていることはありますか?
河野:やっぱり意欲に燃えている人は応えてくれるんですけど、うーん、もうそれなりにベテランの域に入っている人の多くは難しいですね(笑)。
堀川:そう云うところで1つ、攻殻にTVシリーズの最初からずっと参加してきて、神山監督の指揮官として非常に優秀な部分を見てきたと思うんですけど、神山監督のスタッフに対する指揮官としての姿勢で、河野さんが自分なりに消化して取り入れていきたいなぁと思うところはどんなところですか?
河野:神山さんのスタッフの巻き込み方で1つ自分が見習いたいなと思っているところは、スタッフの・・・何て言うんですかね、スタッフの何かをくすぐるんですよね。例えば、普通だったらこれで行きましょうと言うところを、でも、その人が挑んでみたい何かを持っていたとしたら、そのへんをくすぐるような気がするんですよね。
堀川:9スタにいるスタッフは4年間TV攻殻を作ってきて、今回も攻殻SSSをやろう、次回作も神山監督とやろうと、その、監督の一番の牽引力、備えているもの、それは何なんでしょうかね?
河野:そうですね、神山さん自体すごく聡明で頭が切れる部分があって、それだけに下手なモノを出せないという緊張感が常にやっぱりあって、それで、一言で言ってしまえば、神山さんに満足してもらえるものを作ると云うこと自体が目標になると思うんですよ。
堀川:ふむ。
河野:ええ。今回はこれを満足してもらうために頑張ろうとか、そう云う人柄なんでしょうか、何でしょうかね。
堀川:それは演出と作画の関係でも非常に大事ですよね。この人に満足してもらうものを上げたいって云う、この人に自分の仕事を見てもらいたい、評価してもらいたいと思わせるものは何なんだろうかと。
「1回限りの人」
河野:今の演出と作画の関係って、例えば攻殻TVシリーズ52話の中で5回6回一緒に仕事をしたアニメーターってあんまりいないんですよね、わりと1回きりで。「あ、以前一度ご一緒しましたね」って言ったらそれが1話だったりとか。若い人で意欲に燃えている人は、また是非と云うように思ってもらえるんですけれども、コンスタントに一緒に仕事をしていなくて1回限りで、「じゃあまた何か機会がありましたら宜しく」だと、あんまりそういう気持ちが、何かね。例えば、ここをこうしてみたらどうでしょう、みたいなリテークを同じように出しても、次にまたやりたいと思う人はそれでいいですけど、1回限りではその辺がなかなか。継続して神山さんと各スタッフのような関係を築けるといいですけどね。
堀川:攻殻TVシリーズでコンスタントに参加してくれるアニメーターを確保するのは非常に難しかった部分でしたね。I.Gでは社内班がずっとローテーションで原画をやってくれていましたよね。
9スタのスタッフと監督はいつも同じ環境で仕事をしていますけど、多くのアニメーターと演出はそう云う環境に無いところが非常に大きいのかなぁ。アールの吉田徹さんはどうだったかなんですけど、P.A.でも作画チームを組んでその中に一人演出がいれば、直しもフットワーク軽く納得させられるって云うかね、人に語るのが仕事のようなところも演出にはあるから。リテークを文字で伝えるのはすごくドライな感じがするじゃないですか。
河野:うーん、そうですね。
堀川:そう云う関係がスタッフと築けるのはその環境次第、その環境がそうしているって云うところがあるのかな。
河野:俺自身は制作出身ではないから、顔見知りのアニメーターがいっぱいいるわけでもないので、そのへんの関係構築は今後の課題といえば課題ですね。
堀川:僕は演出にとって理想の環境を作りたいって云うのがあるので、やっぱり、橘君にもそう云う話をしたんですけど、まず1本の作品に集中できる原画チームを作ってから、そこに演出を呼ぶ、それが演出にとって理想の現場じゃないかな。演出もやる気があって、アニメーターがまだ新人で稚拙な原画しか描けないとしても育ててやろう、そう云う考えの持ち主だったら、お互いに刺激しあって成長していくと思うんですよね。打てば響くような原画マンだったら、どんどん成長していってくれるのを見れば、それは演出にとっても非常に嬉しいと思うんですよね。今はそういう現場が作れないことが、アニメーターが上げたモノに対して、演出からリアクションを取りづらくしているのかな。作品に巻き込んでいけないのもそう云うところではないかと思うんですよね。
「えっ、レイアウト3Dじゃないの?」
堀川:今回の3Dレイアウトシステムに関してはどんな感想ですか?
河野:一言で云うなら助かっていますと云う感じですね。高いレベルのレイアウトを手描きで描ける人がどんどん減ってきていると云うのは、恐らくみんな感じていることだと思いますし、レイアウトを如何にコントロールするかって云うのはクオリティーを維持する上での大きな課題だったと思うんですね。レイアウトチェックと言えば原図を直すところからまずスタートで、時間が無いときはもう原図を直すだけでも疲れきってしまうような状況だったんですけれども。一度タチコマ日直日誌にも書いたことがあるんですが、あの3Dのレイアウトガイドの出力は、本当にそう云う原図修正の労力がかなり削減されて助かっていますね。
堀川:今後の2Dと3Dが進む方向、どう云うふうに3Dを上手く取り入れていくか、アニメーション業界全体の方向があるとは思うんですけれども、この現状に対してどう対処するか、クオリティーコントロールと演出の負荷を考えれば、もうきっぱり3Dレイアウトにシフトすべきじゃないかと僕は考えているんですがどうですかね?
河野:たぶんレイアウトが描ける、興味があるアニメーターと、そうでないアニメーターが二極化していくことは避けられないでしょうね。それで、描ける人はもうそんなに増えていかないような気がするんですよね。10人新人の原画マンの中でどれだけ成長していくかよりも、3Dレイアウトの確実性の方が量産態勢としては伸びていくような気がしますね。レイアウトの力量に期待できないことを前提とした絵コンテとか、前提の演出の仕方もあるので、そう云う方法で切り抜けていける作品も多々あるとは思うんですけれども、攻殻のようなレイアウトがしっかり取れていないと成立しないような作品の場合は、潤沢な作画戦力の態勢がとれるのであればいいですけれども、なかなかそうはいかない現状を考えると3Dは積極投入の方向なのかなと思いますね。恐らくそうすると近い将来アニメーターに制作が電話を掛けると、「えっ、レイアウト3Dじゃないの?」って言われるのは予測できる問題ですね。
堀川:(笑)、そう云うことに対して割り切るとすれば、今後手描きのアニメーターはどう云う技術を延ばしていかなければいけないとか、どういう部分でこだわっていく姿勢が必要だと思いますか? どんどん手描きの領域が3Dに取って代わられていくことに対して、手描きアニメーターへの警告みたいなものは。演出が求めるものは手描きよりも、ことレイアウトに関しては3Dの方がそれに近いものが上がってきたということですよね?
河野:はい。
堀川:3Dレイアウトにしたほうが、演出は絵コンテ段階で表現できる幅も広がるってことですもんね?
河野:そうですね。