全部言ったことは叶ったよ
じゃあ、攻殻みたいなの
神山:これもよく人に言うんだけど、全部言ったことは叶ったよ。「俺は24歳で独立してフリーになる」とずっと思ってたんです。そうしたら23歳で晴れて独立したんですよ。で、「28歳で演出家になる」、これももう決めていたし言ってた。そしたら28歳で演出になった。本当に。その頃俺は、将来攻殻―マンガを見ててね、「俺はこれを監督したいな」、と。そしたら、「バカ言ってんじゃねーよ。今残念ながら押井さんが攻殻の監督してるよ、もう」。・・・嗚呼、そうか。じゃあ駄目だな。「じゃあ、攻殻み、た、い、なのをやるよ(笑)」と、そのころ言ったんですよ。でね、「33で俺は監督になる」ってね。さすがに段々ハードル高くなってきたからさ、監督になったの35でしたよ。2年目標より遅れたけど監督になった。で、気が付いたら攻殻の監督やってましたよ。自分でも忘れたけど。これはね、言ってみるもんだよ。言ったことは大概叶ったね。
堀川:そう云う人はあんまりいない(笑)
言ったからにはやるって云うね
神山:それは間違い。実はみんな本気で言っていないから。本気で言っていないんですよ。だからモー娘の誰かと結婚しいたいと思ったらね、まずその娘と出会わなきゃだめじゃないですか!(笑)みんな写真は眺めるかも知れないけどさ、会う努力さえしないじゃん。コンサート会場で会ったってだめですよ。もうちょっとね、そんなに大変じゃないんだ、以外に簡単なんだって云うね(笑)。5年後に2000万のフェラーリを買おうと決めたとするじゃない、そしたら一日いくら貯金するかは自ずと出るじゃないですか。
堀川:言ったことに対して努力を継続してできる人は少ないってことです。俺たちは「今週中に原画を上げる」って原画マンの話をどれだけ聞いているか!一日何カットかくらいすぐ計算できるでしょう(笑)
神山:それはさあ、そこには言ったからにはやるって云う、いちばーんちっちゃな目標の方がないんですよ。同時に一番小さな目標を設定することはそんなに大変なことじゃないんです。
これを成功と呼ぶか
―アニメーション業界の成功者は、もっと成功例を外に見せるべきじゃないか。今後この業界を目指す人たちにとってのスタープレーヤーが、成功してどんなもの―金銭的なもの、名誉を手に入れられるかを見せるべきじゃないか。そういう人はオープンにして、どんどん出て行くべきじゃないか。そんな質問が参加者から監督にありました。
お客さんの目を意識していることは、ほぼ無かったね
堀川:でも、この業界に入ってくるクリエーターにとっての「成功」なんだけど、例えばレベルの高い作画を描いたとして、これはもう視聴者が見てもわからない「違い」だったりするでしょう? 彼らは何に向かって描いているかって云うと、同業種のクリエーターにアピールすることが大事なんだよね。野球のような数字じゃなくて、誰に認められることを「成功」と思えるかってことだけど。
神山:同業者が見て誉められないような物を作るとヤバイって云う意識はあったとしても、お客さんの目を意識しているってことは、ほぼ無かったかもね。成功をね、外に見せていくことはもちろん必要なんですけど、僕が成功しているかっていうと、僕なんかまだ全然成功していない。ようやく、会社に先に就職した同世代の人たちと同じ年収に追いついたかな?くらいですよ。これを成功と呼ぶかって言ったら、全然成功じゃないです。この業界に成功例は極端に少ないと思いますよ。宮崎(駿)さんくらい成功して初めてプロ野球選手のトップランナーと同じくらいかしら~ん? というくらいで、まあ実際の稼ぎかは判らないけど。
外に向けているんだ、僕たちは
神山:あと、やっぱり野球っていうのはマスコミと対になってる産業でしょう。そうやって成立しているジャンルだと思うんですよ。大リーガーってあれだけの年俸をもらう代わりに、マスコミが追っかけるし、プライベートがなくて嫌な思いもすると思うけれども、社会福祉に参加したりとか、最低限ファンにサインするとか、そういうところを徹底されているわけですよ。もちろんそこまでの力を持ったマスコミとの連帯なんてシステムさえ無いこの業界だけれども、でも、外に向けているんだ、僕たちはって云う意識をもうちょっと持つべきだと思うんですよ。ぼくはそう思うんだよね。
人に見られることに誇りを持てよ、とかね
外に向けてるんだよ
神山:昔はね、自分の描いたものを「どうだ!」って見せる人が多かったんだけれども、最近は帰るときに机の棚に隠したりする。人に見せるものを描いているに人に見せたくないなんてね、こんなバカな話は無いよ。自分自身が見られるのは恥ずかしいかもしれないけど、自分の描いたものは人に見て欲しいからこの業界でやってるわけじゃないですか。外に向けてるんだよ、そういう意識は持てよ、そういう気がするの。それはマスコミが来るから良い格好をしろとか、そういうことじゃなくて、自分の描いたものを人に見られることに誇りを持てよ、とかね。そういうことを少しずつ、まず中にいる人間の意識から改革していきたいんだけどね。これから入ってくる人達にも、この業界にはサクセスがあるんだぜってことは提示していかないと駄目だね。成功が無い業界に人は集まらないから。
絶対跳ね返らせて見せる
神山:この業界では野球協約で決められているような最低年俸を決められません。まだそんなに裕福ではない。でも、ここから先必ずそういう業界になるんだ、その為には君も今日最低2カットは原画を描く。それは意識を変えてもらうしかないんですよ。それをフリーだから強要できないって状況もあるんだけれども、フリーといえどもこの作品に携わっている間はそうしろよってね、それで出て行かれる可能性もあるんだけれども、いや、今騙されたと思ってやってみてくれと。それを来年の年収に絶対跳ね返らせて見せるって云うね、その自負はそのポジションに就く人間は持たなきゃいけないと思うよ。俺は給料払う側の人間ではないけれども、少なくとも苦しい作品につき合わせている以上は来年の年収は変わると思うくらい売れるよ、と。で、売れる為には、「俺はそうしたくない」じゃあ駄目な場合もあるんだよね、っていうことを少しずつ俺は話しているつもりなんだけど、まあ難しいよね。でも、諦めない。
それをクリエイティブな作業と呼ぶな」
3年後です
堀川:売上に対するアニメーターの貢献に対して、成功報酬が彼らに跳ね返るってことはまずないよね。今までに例があったとしても、せいぜい作画監督止まりだよね。
神山:それだって稀な例ですからね。でも、こいつらはいつも大ヒットしている作品作ってるぜって状況を提示できて初めて制作費も取れるかもね。あと、稼いだ金があるから、次の制作費に今までよりちょっと回せるよね。「じゃあオマエ、昨日そういうこと言ったから明日俺の給料を倍にしてくれるんだろうな」って言われても困るわけ。倍になると云う目標は3年後です。ただし今日はここまでは描いていって下さい。これなんだよ。でもこれはね、最小と最大の目標を両方持ち合わせてくれよって云うのをみんなに伝えていくということが、それすら難しいんだ、まだ、ね。
けっこうダサイぜ
神山:それだけ個人主義の業界だと思うし、インターネットが普及してくると、クリエイティブな作業を別に集団作業に関わらずにとか、システムに組み込まれなくても真似事ができるって云う時代になったってことなんですよね。でも、ちょっと冷静になって、それガリ版でやってると思って下さいよと。けっこうダサイぜ。インターネットだ、ホームページだって言ってやってるからチョット格好いいし、もしかしたら誰か見てくれる。自分のHPのヒット数が増えて、「あっ、600人見てる」・・・。確かに見てます。ガリ版で600人に見せるのは難しいですよ。でも、ガリ版刷ってるのと本当は同じなんだ。それをクリエイティブな作業と呼ぶな、そんなお手軽に出来るところに逃げ込むなって云うね。新海誠さんはすごいけど、新海さんの偉業にハラハラする必要はないんだ。そんなことに一喜一憂するなオマエ等!ってこれ載ると誰も俺の仕事してくれないよ・・・。
堀川:ハハハハハハ